「壊す」か「残す」か、選択の分かれ道 |新着情報|ウッディライフ

「壊す」か「残す」か、選択の分かれ道

「壊す」か「残す」か、選択の分かれ道 | 現場レポート

今日明日は築100年を超える古民家のリノベーション工事の工事中現場の見学会です。場所は地域のお寺さん、その庫裡(くり)として長く人々の営みを支えてきた建物です。地域の風景として生き続けてきたこの家を、壊すのはもったい、次の世代にも繋げていきたい——そんな想いから工事は始まりました。

築100年。

この数字だけを聞けば、多くの人は「もう寿命だろう」「建て替えた方が安心」と思うかもしれません。確かに、構造材には経年劣化や著しい傾きが見られ、現代の耐震基準からするとまったくとどかない箇所も多くありました。断熱性も、気密性も、現代の家とは大きく異なります。

しかし「ただ古いから」という理由だけで壊してしまうには、あまりにも惜しい建物だったのです。

この家はお寺の庫裡ですので、法要や集まりなど、地域行事の場としても機能してきました。地域の方々にとっては、自分たちの生活の一部でもあり、景色の一部でもありました。

その佇まい、軒先の影、風の通り道。

すべてが、地域の記憶と繋がっていました。

100年という時間は、ただ年月を重ねたという意味ではありません。

そこには、数えきれないほどの暮らしの積み重ねがあります。

襖や柱に残された手の跡。天井裏から出てきた手書きの書類や古道具。床の間にささやかに飾られていた季節の花。

こうした一つひとつが、この家の歴史を物語っていました。

また、職人の手による造作も見事でした。和室の丁寧な造り、繊細な障子や建具。現代では手に入りにくい無垢の一枚板や霧除け、自然素材がふんだんに使われ、100年を経てもなお美しさがありました。
屋根の形を構成する「小屋組み」はトラス構造です。体育館の屋根の形と言えばピンと来るかもしれません。太い登り梁と水平の桁で三角形をつくり、柱を遠くまで飛ばすことができるつくり方です。当時の職人さんの知恵と技術に感動すら覚えます。

“本物の素材”と“本物の手仕事”こそが、この家の持つ最大の魅力であり、現代の住宅にはない深みを感じさせてくれます。

リノベーションにおいて、私たちが大切にしたのは、「住まいとしての快適性・安全性の向上」と「記憶をできる限り残すこと」の両立でした。

もちろん、古民家をそのまま残すのは難しい部分もあります。耐震性能を上げるために柱や梁の補強が必要でしたし、断熱材を入れることで見た目が変わってしまう箇所もありました。一部を減築することで構造バランスを整えることも計画しました。

工事のすべての工程において、「この空間は何のためにあるのか」「この風景は残せるか」という視点を忘れずに進めております。残せる部材は再生し、建具なども大きさを調整しながら再利用していきます。
工事中は地域の方、通りかかる方に何度か覗かれます。「何の工事してるの?リフォームだったんだ」「すごい工事してますね。楽しみですね~」地域の方々の期待も感じます。

家は、単なる器ではありません。


そこに住む人だけでなく、周囲の人々にとっても意味を持つ、風景であり、物語であり、つながりそのものなのです。

今後、少子高齢化が進む中で、使われなくなった古民家が全国で増えていくことは避けられない現実です。その中で、すべてを保存することは現実的ではありません。しかし、「壊すこと」しか選択肢がない社会ではなく、「残す」「活かす」ための知恵と工夫があることを、多くの人に知ってもらえたらという想いで我々はリノベーションをお伝えしています。

確かに、古い家を扱うことは簡単ではありません。思いがけない手間や費用がかかることもあります。けれど、それ以上に得られる価値があります。
建替えはいつでもできます。リノベーションは今しか選択できません。

それは、時間を超えて受け継がれる“場所と歴史”の力。

そして、そこに生まれる“新しい物語”です。

私たちがこの築100年の古民家をリノベーションしたのは、「過去を懐かしむため」ではなく、「未来へ繋ぐため」です。

この家がこれから先も、風景の一部として、暮らしの舞台として、人と人とのつながりを育んでくれることを願っています。

そして、同じように古民家の可能性を信じている方々の背中を、少しでもそっと押せるような存在でありたいと思います。


WOODYYLIFE
リノベーション部
磯野充